SNSやWebマーケティングは、ビジネスのみならず政治の分野にも新たな風を吹き込んでいます。特に2024年の衆議院選挙ではショート動画を中心としてSNSでの動画発信を積極的に行うことで、特に若年層に対してアプローチを強化し、国民民主党が公示前の7議席から4倍増の28議席に増加する躍進を遂げました。
この背景を踏まえ、本記事ではSNS・Webマーケティングの観点から、WEB制作会社や広告プロモーションに関わる企業が今後どう政治の領域に足を踏み込んでいけるかを考察してみたいと思います。
石丸伸二氏が2024年東京都知事選で躍進した背景には、SNS活用がありました。石丸氏は市長時代からYouTubeを通じて市政に関する情報発信を行い、視聴者と対話する形式での透明性の高い政治スタイルを確立していました。2024年の都知事選でも同様にYouTubeを活用し、リアルタイムでの政策共有や有権者との関係強化を図り、ネットと現場での「融合」による支持拡大を実現しました。
立憲民主党が設立された際のSNS戦略も、政治マーケティングの成功事例のひとつです。設立時に公式Twitterアカウントを活用し、当時支持者が撮影した写真や動画を自らSNSで発信することで、党の認知度は拡大し、短期間で多くのフォロワーと支持を集めることに貢献しました。
重要なのは、SNSの活用が上手い政治家・政党が増えてきたことではなく、これらの成功事例を通して政治に関わるその他大勢の人々が、選挙におけるデジタル空間でのマーケティングの必要性に気づき始めていることです。従来選挙は、デジタルの領域で仕事をつくる制作会社や広告代理店とは離れた存在でしたが、今後はその必要性がより高まる可能性が高まっていくのではないでしょうか。
選挙ドットコムによる2022年段階での調査では、現職の国会議員のうち95%以上がホームページまたはブログを運用し、SNSの活用も媒体ごとに差はあるものの活用が進んでいることが見てとれます。そのため議員においてもデジタルツールの活用自体は進んでいるものの、まだまだノウハウが乏しく戦略的に活用できている候補者・政党は少ないと言えるのではないでしょうか。
特にマーケティングの面においては、企業の文脈でもSNS・ウェブサイトといった手段に囚われ目的を見失うことが往々にして存在します。最も大事な点は「何のために」活用し「誰に」「どんなメッセージ」を伝えたいかであり、それらのターゲティングやプロモーション戦略策定といった総合的なコンサルティングが今後求められていくのではないかと思います。
ここで、そもそもSNSやホームページを使ったデジタルマーケティングは、選挙でどこまで可能なものかという疑問が湧きます。総務省「インターネット選挙運動について」によると、ウェブサイトやSNSを活用した選挙運動は候補者と政党、および有権者のどちらも可能ですが、メールで一対一・多対一に投票を促す行為は候補者または政党でのみ許可されています。
さらにこれらの選挙運動は公示・告示日から投票日の前日までしか行うことができず、18歳未満の者は行えない点も特徴です。ただし「選挙運動」は判例・実例によると「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」と総務省サイトに明記されており、自身の政策や活動を紹介する行為は選挙期間中を問わず行えることが分かります。
次に予算はどの程度なのかという点が気になります。選挙に利用できる金額は公職選挙法によって制限されており、国政選挙・首長選挙・地方議会選挙と実施する選挙によって異なります(参考:延岡市公式サイト「選挙運動費用っていくら?」)が、数百〜数千万単位が上限となります。その中でも、実際に選挙の中で使用された金額は「選挙運動費用収支報告書」として地方自治体のウェブサイトなどで公開されています。
広告費として数十〜数百万円単位で計上されている場合もあれば、今年の東京都知事選で現在の小池都知事がAIアバターの作成に外注費として224万円を計上するなどユニークな使われ方もされています。
政治家一人あたりでは、デジタルマーケティングに割く費用はそこまで多くないと考えられますが、地方議員も含めた母数を考えると十分に可能性のあるマーケットと捉えることができるのではないでしょうか。
インターネットで検索する限りでも、政治家・団体向けにホームページの作成やSNSのコンサルティングを行っている企業が既に出てきています。「ボネクタ」というサービスは、政治家個人ページの作成だけでなく、ターゲティング広告やPR記事作成など幅広くマーケティングを支援し4,000人以上の政治家に利用されているそうです。
成熟期に入ったデジタルマーケティングの市場において、選挙・政治という領域は数少ないブルーオーシャンと言えるのかもしれません。
アメリカの選挙戦では、スーパーPACという政治団体を経由すれば無制限に献金を集められるため政治広告支出増大が続いており、24年大統領選では2兆円超えの過去最高額の可能性も取り立たされています。現状は地上波やケーブルのテレビ広告が支出先全体の7割近くを占めていますが、オンライン広告やインターネット接続型テレビ「コネクテッドTV(CTV)」は綿密なターゲティングを行うことができるため支出が増加傾向なようです。
日本でもYouTubeやNetfix・AbemaTV・Amazonプライム等を閲覧できる「コネクテッドTV」はビデオリサーチ社の2022年の調査で57%に達しており、これらのプラットフォームでの広告などは、今後選挙戦などでの活用が進むかもしれません。
執筆:Embedsocial Japan 代表 田中