観光業ではいま、SNSやレビューの「リアルな声」をどう活かすかが大きなテーマになっています。一般的には見えづらい観光客の本音は、Instagramの投稿やGoogleレビューといったソーシャルメディア上に日々蓄積されており、観光戦略の判断材料として注目されています。
当社のEmbedSocialも、親会社であるbasicmath社を通して「福井県観光DX推進マーケティングデータコンソーシアム」をはじめたとした全国各地でSNSやレビューなどのソーシャルデータをもとにした観光分析に活用されています。
そして2024年には、福岡県立糸島高等学校の生徒たちが、糸島の観光地をテーマにソーシャルデータ分析に挑戦しました。InstagramのハッシュタグやGoogleの口コミをAIやテキストマイニングで可視化し、見えてきた課題と魅力を行政・観光協会に提言。その成果は「高校生国際シンポジウム」で発表されました。当社とbasicmaht社はこの取り組みに対して、ツールの提供や観光データ分析のノウハウをもとに支援を行いました。本記事では、この高校生が取り組んだデータ分析の事例を通じて、SNSやレビューといった“観光客の声”が地域の観光にもたらす可能性を考察します。
※本記事は抜粋でのご紹介です。全文はbasicmath社サイトよりご確認くださいませ。
福岡県立糸島高等学校では、9年間にわたって「総合的な探究の時間」を活用し、生徒たちが地域課題に取り組む独自の授業「糸高志学」を行っています。しかし近年、各グループが扱うテーマに対して「使用できるデータが限られている」「検証結果が毎年似通ってしまう」といった課題が顕在化していました。特に、市役所が提供する統計データなど、既存の情報では分析の切り口が重なってしまい、オリジナリティのある成果を出すのが難しい状況でした。
この状況を打開すべく、2023年度からは教員主導で課題設定を行い、専門性を活かしたゼミ形式に移行。より実社会に根ざしたテーマで深掘りできる体制が整えられました。その中で、長江教諭が立ち上げたのが「ソーシャルメディアデータを活用した糸島観光の分析」プロジェクトです。自治体や観光庁の視点を意識し、糸島の観光課題をデータから見直すという新たな試みでした。
Instagramハッシュタグ分析
プロジェクトの第一段階では、生徒たちがInstagram上の「#糸島」が付けられた投稿を対象に、データの収集と分析に取り組みました。対象期間は2023年5月から2024年6月までで、3,000件を超える投稿データが分析されました。
この分析では、投稿の本文よりもハッシュタグに注目し、頻出語をテキストマイニングと形態素解析で抽出。AIツールによるワードマップを作成することで、訪問者が糸島のどこに魅力を感じているのかを可視化しました。たとえば「#海カフェ」「#自然がいっぱい」といったワードが多く出現し、糸島の“映える”景観やリラックスできる雰囲気が強く支持されていることが明らかになりました。
Googleレビュー分析
Instagram投稿はポジティブな印象に偏りやすい一方、Googleレビューにはより率直な感想が集まるため、生徒たちは「糸島トトロの森」「芥屋の大門公園」「芥屋の展望台」に関するレビューを収集・分析し、観光客のリアルな声を掘り下げました。
レビュー288件を対象に、プラス意見・マイナス意見を手作業で分類した結果、「自然の雰囲気が良い」「展望台からの景色が美しい」といった評価が目立つ一方で、「登るのが大変」「展望台が狭い」といった課題も浮かび上がりました。これらの意見は、糸島の観光資源としての強みと改善点を把握するうえで、貴重なヒントとなりました。
糸島高校提供 勉強会の様子
目の前にあるデータは、単なる文字の羅列ではありません。それは観光事業者にとって、明日の収益を左右する「成功への鍵」とも言える重要な資源です。実際に観光地を訪れた旅行者が、どのような点に感動し、何を評価し、そしてどこに不満を感じたのか——。そうした生の声にいち早く気づき、サービスやコンテンツの改善に反映させていくことで、地域の魅力を最大限に引き出し、持続的に「選ばれる観光地」へと進化させることが可能になります。
市役所・観光協会との連携
糸島高校の生徒たちが行ったデータ分析は、単なる探究学習の枠にとどまらず、地域行政との連携にも発展しました。Instagramのハッシュタグ投稿やGoogleレビューから抽出した観光地の評価・課題は、糸島市役所や観光協会へ報告され、地域の観光施策を考えるうえで新たな視点として受け止められました。
生徒たちの視点による具体的な提言が含まれていたことで、従来の調査にはないリアリティと説得力が生まれ、教育と地域をつなぐ好事例となりました。
高校生国際シンポジウムへの採択
本プロジェクトの成果は高く評価され、「高校生国際シンポジウム」への採択につながりました。地域課題に実践的に取り組み、企業と連携しながら社会に発信するという姿勢が、先進的な取り組みとして認められたかたちです。
生徒たちは、普段の授業で得た知識を、実社会での行動や発表に昇華させるという貴重な経験を重ね、「学びが社会とつながる」実感を得る機会となりました。
高校生国際シンポジウム:https://www.glocal-academy.or.jp/symposium