ホテルメトロポリタン エドモント様では、UGCの活用にEmbedSocialを活用いただいており、今回はその企画背景やUGCマーケティングにおける課題・成果などをインタビューさせていただきました。ホテル業界をはじめ、事業会社のマーケティング担当者必見の内容です。
ホテルメトロポリタン エドモント マーケティング部販売促進課 田中宏史様
ホテル内レストランやJR系列のパン屋での現場経験を活かし、15年前にマーケティング企画担当へ転身。現場のオペレーションを深く理解しており、企画の実行時に現場への負担や調整を具体的に考慮することで、現場スタッフとの信頼関係構築を促進。売上向上だけでなく、ホテル独自の魅力強化と従業員のモチベーションアップを両立した取り組みを行っています。
田中様:今回実施したのは、TVアニメ「シンカリオン」とのタイアップ企画第3弾です。現在、シンカリオンルームは全4部屋展開しており、第1弾、第2弾から訪れてくださっているリピーターの方々にも新鮮さを感じていただけるよう、前回よりもさらにシンカリオンの装飾を増やし、満足度を高める工夫をしました。
特に家族連れの宿泊者様に配慮し、お子様が夢中になって楽しめる仕掛けを多数取り入れています。例えば、ノベルティが入った金庫のパスコードが書かれたカードを部屋の中で探すゲームや、お風呂嫌いなお子様向けのアトラクションを用意しました。また、お子様が主体的に部屋を楽しめるよう、「部屋の楽しみ方」をすべてひらがなやルビ付きで記載した説明書を作成。親御様が手助けしなくても、お子様が自分で体験を楽しみ、良い意味で「放置」できる空間作りを目指しました。
お子様が興奮して「お父さんお母さん、こんなものがあるよ!」と伝えにいくような体験を通して、親御様にはくつろぎの時間を提供し、家族全員が無理なく楽しめる空間を意識しています。また、リピーターの方にも、初めてご利用いただく方にも新しい発見や満足をお届けできるよう企画しました。
田中様:はい、おかげさまで特にファミリー層には大変ご好評をいただいております。今回のシンカリオンコンセプトルーム第3弾では、これまでご利用いただいたリピーターの方にも新たな満足をお届けできるよう、装飾や内容をさらに充実させました。また、ターゲット層としてファミリーだけでなく、推し活層も意識した工夫を取り入れた点も評価いただいています。
インバウンドのお客様には、特にアジアからのお客様に好評をいただいています。例えば、台湾からのお客様の中には4部屋すべてをご利用いただくケースもありました。さらに、希少性やオリジナル性を大切にしたノベルティの制作にも力を入れ、今回も多くのお客様に特別な体験をお届けすることができました。
田中様:今回の「シンカリオン」コンセプトルームでは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の獲得に向けてハッシュタグキャンペーンを実施しました。その際、一般の参加者が投稿しやすくするために、インフルエンサーを3名起用しました。一般ユーザーは投稿前に他の人の投稿を検索することが多く、素敵な模範例があると自分も投稿しやすくなる傾向があるためです。
インフルエンサーの投稿がクオリティの高いものになることで、一般の方の投稿も一定の水準を保つことができました。さらに、今回のターゲット層がアニメファンであったことも功を奏しました。アニメファンの方々は、もともと写真や構図にこだわる傾向があり、丁寧に撮影された高クオリティな投稿が集まりやすかったことが特徴です。
これにより、UGCを通じたブランド価値の向上や認知拡大を効果的に実現できたと感じています。
田中様:ホテルメトロポリタン エドモントは、約20年前に飯田橋の西武系列の会員制ホテルをJR系列のホテルとしてリニューアルしたという歴史があります。同じ「ホテルメトロポリタン」ブランドの中では、特に池袋のホテルの方が認知度が高く、飯田橋のホテルメトロポリタン エドモントもまだまだ拡大していかなければと考えています。
田中様:現在、多くの人が食べログや口コミを参考にして判断する時代となっていることを実感しました。特に若年層へのアプローチでは、SNSの活用強化やUGC(企業発信ではなくユーザーの投稿)の取得が重要であると気づきました。今では、検索の基準がGoogleやYahooではなく、SNSへとシフトしていると感じます。
さらに、タグ付けされる投稿が増えることで、それがUGCとして資産化されると考えています。広告や新聞のような一時的な施策とは異なり、UGCは継続的に価値を生み出します。また、将来的にインスタグラムが別のSNSに取って代わられたり、新たなSNSが登場したとしても、資産化されたUGCがあれば容易に展開でき、トレンドに乗り遅れる心配がないと考えています。
田中様:今回のノベルティでは、シンカリオンのキャラクターをデザインしたフォトフレームをフォトスポットやお持ち帰り用として用意しました。子どもが安全に扱えるようにPET素材を使用し、ガラスのように割れる心配をなくしました。持ち運びしやすく、壊れにくい仕様にすることで、安心して楽しんでいただけるよう配慮しています。さらに、アクリル素材と比較し安価な為コストを抑えることもでき、社内的にも実現しやすい選択となりました。
また、今回の企画ではオリジナル性を重視しました。第1弾の際はどこまで経費をかけられるか不透明だった為、コストがあまりかからない既製品を活用していましたが、それでは希少性が薄れ、満足度を高めるのが難しかったことを反省点として挙げています。現在では、物価の上昇も考慮しつつ、版権の範囲内で可能な限りオリジナルのノベルティを製作する方針を採用。希少性を持たせることで、エドモントで予約するメリットを作り、同時にお客様の満足度をさらに向上させることを目指しています。
田中様:今回の「シンカリオンコンセプトルーム」では、特別な食事オプションを用意しました。宿泊だけでなくレストランも利用いただくことで、ホテル全体としての売上を最大化する狙いがあります。またお客様にとっても、 1泊2日の体験をホテルの中で完結できるという点で、快適さや安心感を感じていただけるようになっていると考えています。
具体的には、持ち帰り可能なランチョンマットや、キャラクターのテーマカラーに合わせた4色のドリンクを用意し、好きな色を選べる柔軟な対応を行いました。また、お子様から推し活を楽しむ大人まで満足いただける内容を目指し、デザートプレートにはパティシェがシンカリオンを描く演出も加えました。とても精巧に型取られているので、「食べるのがもったいない」とコメントをいただいたり、SNSに投稿いただいたりとUGCを生み出す大切なコンテンツの一つとなっていました。
こうした工夫により、ただの食事ではなく、ホテルならではの質の高さを表現しつつテーマ性を活かした特別な体験を提供することを重視しました。これにより、お客様にとって記憶に残るひとときを演出することができたと感じています。
田中様:今後の展望としては、数多くのフォロワーと知名度を持つキャラクターとのタイアップを検討しています。人気がありつつも、まだ他のホテルでコラボされていないキャラクターを選ぶことで、独自性を打ち出したいと考えています。すでに他ホテルで展開されているキャラクターの場合だと比較検討もされやすい為、起用は難しい状況です。
またこうしたキャラクターとのコラボを実現するには、ホテル自体の認知度やSNSフォロワー数の向上が不可欠です。そのため、ホテルの認知度アップは長期的な課題として重要視しています。
さらに、来年はホテル開業40周年という節目を迎えるため、特別な企画に取り組む予定です。これまでの取り組みに縛られることなく、新たな挑戦としてARやVRなどの先端技術を取り入れることも検討しています。ただ、これらの技術を活用するためには、まず社内での理解を深めることが重要です。AR/VR市場の規模は今後も市場拡大が期待されている分野ですので、今のうちに社内のAR/VRリテラシーを高める取り組みを続け、準備を進めていきたいと考えています。
田中様:獲得したUGCは、SNS投稿をウェブサイトに埋め込む形で活用しています。この取り組みは他のホテルでも導入が進んでいるため受入られやすく、社内でも高い評価を受けています。特に表示回数は当初の期待を上回る結果を得られており、UGCが効果的にお客様の目に触れる機会を増やしています。
また今後は、SNS投稿を表示する専用のページを新たに設けることで、サイト訪問者にとってサイト内動線をより明確化し、UGCの魅力を楽しめる形に改善しようとしています。このように柔軟に対応しながら、UGCの価値を最大限活かせる方法を引き続き模索していきます。
特別企画「シンカリオン チェンジ ザ ワールド宿泊プラン」でのUGC活用
アクセスページでの自社SNS投稿活用
さらにコンセプトルームの評価を把握するため、客室にアンケートを設置する取り組みを始めました。コンセプトルームは、通常の客室準備よりも各セクションのオペレーションに負担をかけてしまう為、最初は理解を得るのに苦労しました。しかしプラン開始後アンケート結果を共有し、お客様のリアルなコメントを可視化することで、モチベーションアップになるよといった意見を仲間からもらえるようになってきました。
この取り組みが、たとえイレギュラーな業務でもお客様満足度や売上に直結していると感じてもらうことに繋がり、同じ温度感でプロジェクトを進められているんだなと実感を得ることができました。さらに、こうしたアンケート結果を許可を得たうえでUGCとして公開することができれば、新たな活用方法としても検討できるのではないかと思います。
田中様:自然発生するUGCを増やす仕組みを模索している中で、SNS投稿を簡単に埋め込めるUGCツールの存在を知りました。当初は他社サービスとの比較も検討しましたが、ツールのシステムを理解する過程で、スムーズなコミュニケーションや迅速な対応に魅力を感じ、「他を検討する時間がもったいない」と判断しすぐに契約の話を進めることにしました。
私は悩むよりも早く取りかかるタイプなので、その対応スピードが非常に助かりました。また、カスタマイズについても相談可能だと伺い、ツールの柔軟性がさらに魅力的に感じました。このような対応の良さが、選択を決める大きなポイントとなりました。
田中様:昨年からSNS運用を強化し、Instagramのフォロワーは1年間で2000人から1万1000人に増加し、YouTubeも1000人から1万2000人(*ともに2024年11月時点)に成長しました。また、昨年開始したTikTokでは3000人のフォロワーを獲得しています。
田中様:これまでのマーケティングで成功したものや苦労したものもいろいろあります。成功例としては、現在の宿泊プランが売上目標を達成し、利用者満足度も100%を記録していることです。またコンセプトルームの企画では、1部屋に100万円以上の投資をしましたが、第3弾まで続けられていることはチーム全体の努力が結実した成功体験だと思います。
一方で、大変だったエピソードもあります。特に撮影に関しては、初期のころは現場との調整がうまくいかず、時間が大幅にずれることが何度もありました。例えば、撮影が2~3時間押したり、当日の連携不足で被写体スタッフが休みだったりと、トラブルが続く中で何度も調整を繰り返しました。しかしSNSでの成果が注目されたことで、チームの取り組みが周囲から認められ、乗り越えることができたと思っています。
現場のスタッフにSNS動画撮影協力をお願いすると、日々のオペレーションに手間が増えることや、「それが本当に売り上げにつながるのか?」という懸念から、なかなか積極的に取り組んでもらえないことがあります。それでも撮影の目的を丁寧に説明し、納得してもらった上で投稿を続けていくことで、成果が徐々に現れてきました。例えば、あるシェフが投稿したリール動画が約500万回再生されるなど、大きな反響を得ることができました。
こうした成果を現場のスタッフと共有し、一緒に喜ぶことが重要です。さらに、そのリール動画を見たお客様から「このシェフ、リールで見た!」という声が上がるようになると、お客様とのコミュニケーションにもつながり、投稿活動が現場での取り組みの一部として自然に浸透していきます。
最初はマーケティング部からの「お願いベース」で始まったSNSの投稿も、成果が見えてくると現場のスタッフが自主的に取り組んでくれるようになり、それがさらにお客様の反響を呼び良いスパイラルが生まれることがあります。「やらされている感」ではなく、スタッフが能動的に取り組むことが重要だと考えています。
私たちの現場では、多くのアルバイトや多様なスタッフが働いているため、基本的にはマニュアルを守り、オペレーションをシンプルにすることを心がけています。しかし、お客様やスタッフにとって有益であると判断した取り組みについては、積極的に挑戦し続けたいと思っています。
田中様:マーケティング部に配属された際に、上司から教わったことが私の基盤になっています。その中でも最も重要だと感じたのは、「8~9割は下準備」という考え方です。例えば撮影では、順調に進むことの方が珍しく、予定通りにいかないことが多いです。しかし、事前の交渉や下準備をしっかり行っておけば、どんなイレギュラーにも柔軟に対応できることを学びました。
また、周囲を巻き込むことの重要性も教わりました。具体的には、事前に温度感を共有し関係者に「これをやります」と伝えて理解を得るプロセスです。突然「もうこれをやることが決まりました」と発表すると、「そんなの聞いてない」「どう対応するの?」といったネガティブな反応が相次ぎ、ハレーションが生じることが多いです。
しかしあらかじめ関係者の理解を得ておくと、その後のプロジェクト進行がスムーズになります。一見時間がかかるように見えますが、結果的に効率的であると感じています。
また、マーケティングツールのノウハウは、展示会やイベントに地道に足を運んで集めています。ツールの性能だけでなく、担当者とのコミュニケーションも重視しており、「この人と仕事を進められるか」という視点で判断しています。時間がない場合には、企業マッチングサイトなども活用して効率的に情報を収集しています。
田中様:課題として感じているのは、UGCのさらなる増加が必要だという点です。自社の魅力を伝える施策は徐々に成果を上げつつありますが、お客様が体験をタグ付けしてSNSに投稿するケースはまだ少ない状況です。特定のコンセプトルームに限った取り組みではターゲット層が限定的になりがちなため、宿泊だけでなく、レストラン・宴会・婚礼などホテル全体の利用シーンにおいて、誰もが気軽に楽しみながら投稿したくなるような仕掛けを作る必要があると考えています。
理想としては、ロビーや日常的な場面で自然にUGCが発生し、特別なキャンペーンに依存せず日常の体験そのものが「楽しい」と感じてもらえる環境(=ホテル体験)を作りたいです。お客様が自発的に「楽しい!」と感じて投稿したくなるような取り組みを継続することで、ホテルの満足度やブランド力を長期的に向上させていきたいと考えています。
マーケティングの目標としては、将来を見据えた基盤作りが最優先だと考えています。コロナ後のホテル業界は好調ですが、UGCやタグ付けといったコンテンツ強化への投資は、直接的な費用対効果を測るのが難しい面があります。それでも、こうした取り組みがブランド力の向上や他企業との対等なタイアップ関係の構築に欠かせないものだと捉えています。また、これによりホテル全体の印象アップを通じて、採用活動や社内コミュニケーションにも良い影響を与えると感じています。
現在の余力を活かし、積極的に投資する姿勢が将来の競争力に繋がると確信しています。具体的な指標が見えにくい中でも「未来への投資」という視点を持ち、今後も積極的に取り組みを進めていく予定です。こうした努力により、ホテル全体に「雰囲気が良い」というポジティブな印象を与え、結果的に長期的な効果を生み出していきたいと考えています。
このように、日々の体験を通じてUGCを生み出す仕組みを強化しつつ、将来を見据えた基盤作りに注力することで、ホテルの成長と競争力向上を目指しています。
©プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/ERDA・TX