SNS活用の企業戦略は大きな変化を迎えています。かつては「とりあえず始めてみよう」と導入する企業が多かったものの、現在はデジタル広告市場の成熟により、費用対効果をシビアに評価する企業が増えました。その中で、かつて注目された「ハッシュタグキャンペーン」は「オワコン」と見なされる場面が増えています。
しかし、ハッシュタグキャンペーンは本当に「オワコン」なのでしょうか? 実は、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用する視点を取り入れれば、その価値は大きく変わります。UGCを広告や商品開発に活用する企業が増えており、認知拡大にとどまらず、顧客体験の可視化や購買意欲の向上といった効果が期待できるのです。
本記事では、ハッシュタグキャンペーンがオワコンとされる理由を解説するとともに、UGCを活用した新たな可能性を提案していきます。ぜひ最後までお読みください。
ハッシュタグキャンペーンが「オワコン」と言われる最大の理由は、費用対効果の低さです。認知拡大を目的とするなら、広告の方が安価かつ効果的な場合が多いからです。広告はターゲット層に直接リーチできるのに対し、ハッシュタグキャンペーンは「参加するかどうか」を顧客の判断に委ねるため、リーチが不安定になりがちです。
さらに、制作会社や広告代理店がLP(ランディングページ)やクリエイティブを作成し、大規模な予算をかけて実施するケースが多く見られます。しかし、こうした大規模なプロジェクトは費用がかさみ、参加者が期待以下に終わった場合はコストが回収できないリスクが高まります。そのため、費用対効果が広告と比べて悪いと判断されることが多いのです。
一般的なハッシュタグキャンペーンとInstagram広告の費用比較
項目 | ハッシュタグキャンペーン | Instagram広告 |
---|---|---|
準備期間 | 2~3ヶ月 | 2~4週間 |
費用合計 | 30~240万円 | 95~110万円 |
企画立案 | 0〜50万円 | 0円 |
特設サイト制作 | 5〜100万円 | 0円 |
バナー類制作 | 0〜10万円 | 5〜20万円 |
外部ツール費用 | 2〜50万円 | 0円 |
広告費用 | 0円 | 75万円 |
運用費用 | 0〜30万円(*発送等) | 15万円(*広告運用) |
準備期間 | 2~3ヶ月 | 2~4週間 |
リーチ数 | 3,150~630,000 | 750,000~1,500,000 |
リーチ単価 | 2~317円 | 1~2円 |
*ハッシュタグキャンペーンリーチ数:50~10,000件の稿拡散を想定し、1ユーザー/平均210人のフォロワー/フォロワーの30%が投稿を閲覧した場合の試算 Instagram広告リーチ単価:弊社で実施しているInstagram広告の直近3ヶ月程度の実績から算出
このように、ハッシュタグキャンペーンは準備に時間がかかり、リーチ単価もInstagram広告と比較すると割高です。特に、大規模なキャンペーンでは特設サイトの作成や広告費、バナーなどの制作費用が重なり、コストが膨らむ傾向にあります。その一方で、Instagram広告はターゲット層を絞った効率的なリーチが可能で、費用対効果の面で優れていることが分かります。
かつては、Instagramの「ハッシュタグ検索」がキャンペーンの拡散手段として活用されていましたが、現在は状況が変わっています。Instagramのアルゴリズムは、ハッシュタグ検索よりも「おすすめ」や「フォロワーが閲覧しているコンテンツ」が優先して表示される仕様に変わりました。
この変更により、ハッシュタグを使った投稿がユーザーの目に留まりにくくなり、拡散効果が低下しています。特に、フォロワー数の少ないアカウントが投稿しても表示される機会が減少するため、キャンペーンの参加者が増えにくくなりました。かつては「#〇〇キャンペーン」などのタグで多くの投稿を集められましたが、現在ではその手法が通用しにくくなっています。
ハッシュタグキャンペーンが失敗する要因の一つが、目的のズレです。多くの企業が「新規顧客の認知拡大」を目的にキャンペーンを行いますが、この目的設定が大きな落とし穴になるケースがあります。ハッシュタグキャンペーンは、新規顧客を効率的に獲得する手段としては効果が限定的であり、既存顧客のエンゲージメントを高める手段としての活用が求められます。
このため、「大規模で実施しなければならない」という先入観を取り払い、小規模に実施し、既存顧客との関係性強化を目的とするという戦略の見直しが求められています。
ハッシュタグキャンペーンの大きなメリットの一つは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を効率的に収集できる点です。キャンペーン参加者が投稿する写真やコメントは、企業にとって貴重なコンテンツ資産となります。これらの投稿は、SNSだけでなくウェブサイトや広告など、さまざまな場面で活用することが可能です。
たとえば、投稿された写真を製品ページに掲載することで、他のユーザーに実際の利用シーンを訴求する効果があります。またUGCは信頼性が高いとされるため、ブランドの魅力をリアルに伝える手段としても有効です。
ハッシュタグキャンペーンでは、顧客の投稿を通じてリアルな声や行動を把握することができます。どのような写真が投稿されるか、どの製品が注目されているかなど、顧客の嗜好やトレンドを分析するヒントが得られるのです。
さらに、投稿の頻度や内容から顧客のエンゲージメントを測ることもできます。この情報は、マーケティング施策の改善や新商品開発の方向性を検討する際のデータとして活用できます。
UGCは、企業が自ら制作する広告素材とは異なる魅力を持っています。顧客の視点で作られたコンテンツは、独自性が高く、他の企業との差別化につながります。また、UGCを活用することで、キャンペーンに親しみやすさや共感を与えることができ、顧客との関係性を深める効果が期待できます。
さらに、UGCをベースにしたクリエイティブな施策を展開することで、ブランドの魅力を発信する新たな方法を開拓することも可能です。たとえば、投稿内容をもとにしたコラボレーション企画やフォロワー参加型イベントなど、独自のアイデアを生み出すきっかけになります。
ハッシュタグキャンペーンで集めたUGCは、SNSやウェブサイトで活用することで大きな効果を発揮します。たとえば、製品ページに顧客の投稿を掲載することで、購入を検討しているユーザーに「実際に使用している様子」を伝えることができます。これにより、信頼感や安心感を与え、購入意欲を高める効果が期待できます。
また、SNSではキャンペーンの投稿を企業の公式アカウントで再シェアすることで、参加者のエンゲージメントを高めると同時に、他のユーザーの参加意欲を刺激することが可能です。
UGCは広告素材としても非常に有用です。従来の広告よりもリアルで共感を呼ぶコンテンツとして機能しやすく、エンゲージメント率の向上が期待できます。実際、UGCを活用した広告はクリック率やコンバージョン率が高くなるケースが多いとされています。
たとえば、InstagramやFacebookの広告にキャンペーン参加者の投稿を使用することで、親しみやすさや信頼感を醸成できます。これにより、より少ない広告費用で高い効果を得られる可能性があります。
ハッシュタグキャンペーンで集まった投稿を分析することで、顧客の嗜好や行動パターンを把握できます。たとえば、どの製品に対する投稿が多いのか、どのような写真が多く投稿されているのかを確認することで、顧客が求める価値を深く理解することが可能です。
さらに、これらのデータを基にしたマーケティング施策を展開することで、顧客体験の向上やブランド価値の向上につながります。また、UGCを活用した新商品開発やプロモーション戦略の立案にも役立てることができます。
JRクレメントホテル徳島様では、Instagramのハッシュタグキャンペーンを通じて集めたUGCを活用し、ホテルの公式サイトやSNSで地域の魅力を発信しました。特に観光地での滞在シーンを紹介する投稿が多く、顧客にとって親しみやすく、旅行先としての価値を訴求することに成功しました。キャンペーンの成功を通じて、ホテル内でもハッシュタグ投稿の価値と活用方法に対する理解が深まったそうです。
ホテルチェーンMIMARU東京では、訪日外国人観光客(インバウンド)をターゲットにしたハッシュタグキャンペーンを展開しました。家族向けの「アパートメントホテル」という新しいスタイルを広めるために宿泊客に「家族旅行」や「グループ旅行」をテーマに写真や感想を投稿してもらい、これらのUGCを公式ウェブサイトやSNSで活用されています。
特に多言語対応のウェブサイトに投稿を掲載することで、従来型のメディアを通して訴求が難しい海外の潜在顧客にも現地での宿泊体験をリアルに伝えることができました。インバウンド需要を意識したUGC活用戦略が、競合との差別化につながっています。
DIGOITAは、大分県の地域コミュニティ活性化を目的として、ハッシュタグキャンペーンを実施しました。キャンペーンでは地域住民や観光客に「#DIGOITA」を使って投稿を呼びかけ、大分県の観光地や地元の魅力を発信する写真や動画を収集しました。
集められたUGCは地域の公式ウェブサイトやSNSで活用され、地元の文化や観光スポットの認知拡大に活用されています。また、地域の住民が自発的に投稿することで、地域全体が一体となったコミュニティ形成が促進され、結果として観光客の増加や地域ブランドの向上に寄与されています。
J-WAVE様では、音楽イベント「フジロック」がコロナ禍で開催中止となったことをきっかけに、ハッシュタグキャンペーンを通じて参加者の体験をシェアする企画を開始されました。キャンペーン終了後もUGCが視聴者間で共有され、フジロックのファン同士が交流するコンテンツとして活用されています。
これらの事例は、ハッシュタグキャンペーンが単なる拡散の手段ではなく、UGCを活用することで実際の成果に直結する戦略になり得ることを示しています。企業の課題に合わせたUGC活用が、ハッシュタグキャンペーンの価値を再評価するきっかけとなるでしょう。
ハッシュタグキャンペーンを成功させるためには、最初に明確な目標を設定することが重要です。単なる認知拡大を目指すのではなく、キャンペーンで収集したUGCをどのように活用するかを前提に計画を立てましょう。たとえば、「収集したUGCをウェブサイトに表示して購入意欲を高める」「投稿を広告クリエイティブに活用して広告効果を向上させる」といった具体的な目標が必要です。
特に、UGC活用を前提にした場合は、キャンペーンで集まる投稿の「数」よりも「質」が重視されます。大量の投稿を集めることよりも、企業がUGCとして実際に活用できる投稿の質を高めることが重要です。そのため、写真のクオリティや投稿内容がキャンペーンの趣旨に合致しているかがポイントになります。たとえば、「商品を活用した日常のひとコマ」や「製品の使い方が分かる投稿」を収集する場合は、そうした投稿が自然と集まる仕掛けを用意することが求められます。
どのようなハッシュタグをつけてもらうか、どのような内容を投稿してもらうかも慎重に設計する必要があります。ハッシュタグは投稿内容を整理し、後のUGC活用を効率化する重要な役割を果たします。ブランド名やキャンペーンの趣旨がわかるものを選定し、参加者が迷わず使えるようなシンプルでわかりやすいハッシュタグが理想です。たとえば、「#○○のある生活」や「#○○体験」など、具体的なアクションを想起させるハッシュタグが効果的です。
投稿内容を具体的に「指示」してしまうと、ステルスマーケティング(ステマ)と見なされるリスクがあるため、注意が必要です。そのため、企画を通じて自然な投稿を促す仕掛けが求められます。たとえば、クリスマス限定のキャンペーンではなく、より汎用性の高いテーマを設定し、参加者が自発的に投稿できる環境を整えることがポイントです。自社の商品を使った「日常のひとコマ」や「○○の使い方」など、ユーザーが楽しみながら投稿できる仕組みを用意すると、企業の意図と参加者の自発的な投稿が自然に結びつきやすくなります。
収集したUGCを活用する際には、投稿者から利用許諾を得ることが必要です。許諾を取得せずにUGCを活用すると、著作権の侵害や投稿者とのトラブルにつながるリスクがあるため、キャンペーン実施時にこのプロセスを適切に管理する必要があります。
従来は、企業がDM(ダイレクトメッセージ)で投稿者一人ひとりに許諾のリクエストを送ったり、取得状況をスプレッドシートで管理する手間がかかっていましたが、専用のツールを活用することでこのプロセスを自動化することが可能です。ツールを活用すれば、DMの送信、同意の追跡、ステータスの管理までが自動化され、担当者の負担を大幅に軽減できます。
例えば、UGC活用ツールでは、投稿者のアカウントに自動でDMを送り、投稿の利用許諾を取得できる機能が搭載されています。取得した許諾はツール内で一元管理されるため、従来のようにスプレッドシートで管理する必要がありません。このようなツールを活用することで、UGC活用の効率化を図り、業務の自動化を実現することが可能です。
ハッシュタグキャンペーンは、単なる認知拡大の手段としては効果が薄れつつありますが、UGC活用を前提にすれば、依然として有効な施策です。
これまでのように「大量の投稿を集める」ことを目的にするのではなく、「UGCとして活用できる質の高い投稿を集める」という視点が重要です。投稿内容の質を高めるためには、ハッシュタグの設計や参加者が自発的に投稿しやすい仕掛けを用意する必要があります。さらに、許諾の取得を効率化するためのツールの活用は、業務の負担を減らし、企業と投稿者双方にとってメリットのあるUGC活用を実現するためのポイントです。
ハッシュタグキャンペーンの価値を見直す際には、「UGCをどのように活用するか」という観点を持つことが重要です。UGCを収集するだけでなく、広告、商品開発、ウェブサイトのコンテンツなど、あらゆるシーンで活用する視点を持つことで、キャンペーンの効果が大きく変わります。単なるオワコンではなく、UGC活用の新たな可能性を引き出すための「きっかけ」として、今後も注目される手法といえるでしょう。